「ねぇ、あの噂ってー、本当なの?
本当に速水くんと付き合ってるの?」
声、出るかな
こんな状況、初めてで喉が苦しい
「…付き合って、ない、よ」
小さい声で、なんとか答えた
そう、実際、空くんとは付き合ってない
「ほら、やっぱり付き合ってないじゃん」
「名前呼びとか、遊びに行くとか、紛らわしいんだもん」
「というか、付き合ってないのにデートってこと?」
付き添い2人も話し始める
言葉がちくちく痛かったけど
これだけは言わなくちゃ
頑張れ
空くんの、あの少しゆがんだニコちゃんマークが頭に浮かんだ
「でも、好きなの…」
3人の話が止まった
「空くんが、好き、だから」
付き合ってなくても、
わたしは、空くんのことが好き
大好き
だから、名前で呼びたいし
一緒に遊びに行きたい
応援だって、いっぱいしたい
そばにいたい
恋をしたら、みんな思うはずのことだもん
わたしが、空くんを好きで
名前で読んだり、遊んだりしちゃダメなんてこと
あるはず、ない
「ダメ、ですか」
「ダメ、なんて言ってない、けど…」
小さな声で話してたはずなのに
クラスの注目が集まってる気がした
ポケットの中で、手紙がくしゃくしゃになっちゃうくらい手を握った
深呼吸して、もう一回ちゃんと向き直った
真剣な、この気持ちが
どうか、伝わりますように
「…ごめん。こんな風に聞いて。
ほんと、ごめんなさい」
女の子は、素直に謝ってくれた
「嫉妬、だったの。わたしも、好きだから。
でも、なんか負けた!
本当に、好きなんだね。速水くんのこと」
真正面からこんな風に言われたら
なんだか恥ずかしくなる
赤くなったわたしの顔を見て、
「前髪、切ったら?似合うと思う」
と、わたしの長い前髪に言葉を残して
席に戻っていった
なんだか、朝の視線はなくなったように感じた