声が聞こえる
…空くん?
「…さん!…!」
ぼやける視界
ぼんやりと人の輪郭が分かった
「藤咲さん、目が覚めた?」
「せん、せい」
保健室の先生だった
あたりまえだ
ここは保健室なんだから
空くんが来るわけないのに
どんだけ意識してるんだろう、わたし
「今…?」
今、何時ですか?
声が少し掠れて出た
「もうすぐお昼よ、まったく起きなかったから心配したわ。
熱はない?大丈夫?」
もう、お昼⁇
あまりにも自分が寝ていてびっくりする
「大丈夫、です、」
「そう、じゃあ午後の授業から受けてね。お大事に」
ふらりと、保健室を出た
湊と優里に、心配かけちゃったかな
でも、なんだかすぐに教室に帰る気にもならなくて
体は自然と図書室の方へ向かっていた
お昼だし、図書室にくる生徒なんていない
いつもの本棚
いつもの本
これを見るだけでも、なんだか安心する自分がいる
本を開いて、パラパラめくる
文通に使ってるこの本は、私のお気に入りの本
この本に友達になりたい、なんて手紙を挟んだっけ
この本を好きな人なら
友達になりやすいかな、なんて思ったんだった
空くんと友達になるなんて、予想外だったけどね
本の文章に、軽く目に通す
主人公は、綺麗な、いわゆる美人に分類される女の子で
明るくて、笑顔が可愛い、そんな女の子
わたしのなりたい、理想の女の子
この主人公が恋する相手は、
爽やかで、優しくて、輝いてる
そんな男の子
まるで、空くんみたいな
爽やかな、甘酸っぱくて初々しいこのお話は、わたしの憧れ
主人公の、彼女のような女の子じゃなきゃ
周りにも、よく思ってもらえないのかな
わたしは、空くんと噂になっちゃうのも許してもらえないのかな
我慢していた涙が、溢れそうになる