「…伊織」
どうしようの波に、飲み込まれようとしていたわたしに
優里は静かに声をかけた
どんどん試合が進んでいく中
たくさんの声援が飛び交う中
「伊織の声は、あのファンの声なんかに負けないよ
伊織は、ここにいるどんな人たちより
速水のこと、想ってるでしょ?」
「…うん、気持ちは、負けないよ」
タイマーや、選手の動きが素早く動き回る中
わたしと優里だけ、時が止まったように感じた
「じゃあ、そんなこと考えなくってもいいわ
誰よりも、速水のこと想ってんでしょ?
聞こえなくたって、小さくたって
何だって
どんな人たちの声援より
絶対伊織の想いは強いから
絶対、伝わる」