「フルーツタルトも美味しいけど、こっちも美味しいよ」


フォークで、いちごショートケーキをつつく空くん


確かに、すごく大きくて、ふわふわで
おいしそう


「…食べる?」


空くんから、魅力的なお誘い


うん、と頷いて
自分のフォークでショートケーキをもらおうと、少し身を乗り出した


でも、あれ?


「はい、どーぞ」


空くんは、自分のフォークでショートケーキをすくってこちらに差し出してきた


いわゆる、恋人たちがやってる、「あーん」ってやつ





うわあわ…ど、どうするべき…???


食べちゃうべきかな、でも恥ずかしすぎるし…!


いらない、なんて言えないし


…食べたいな、なんて思っちゃうし!!


頭の中は大混乱


勝手に1人で赤くなってて、もうどうしよう…!


なかなか食べないわたしを空くんは見て、最初は自分がしていることの意味をわかってなかったようだけど



次の瞬間、空くんの顔もわたしと一緒の真っ赤に染まった


「ご、ごめん!!ええっと、とにかくごめん!うわぁ…恥ずかしい…!」


空中にフォークを漂わせたまま、全力で謝る空くん


「李亜とか、家族とはいつもこうだったから…つい…」


《家族にいつもする》ことを、わたしにやってくれたのは、なんだかとても嬉しかった


けど


…李亜さんに、いつもこうしてるんだ


家族だから、いつも一緒にいるからだよね


わかってるけど、なんだか悔しい


…わたしだって、食べたい


「…食べる」


「え、伊織?」


空中に漂ってるショートケーキを、口に入れた


…人生で一番大胆な行動かも


でも、こんな行動をさせたのは空くんだ
空くんが、かっこよすぎるからいけないんだもん


わたしが、空くんのことが大好きすぎるから


乗り出していた体を、すとんと椅子に落ち着かせる


「…美味しい、だろ?」


「…うん、すっごく」


恥ずかしくって、2人で笑った


今まで食べたどんなショートケーキよりも


甘くて、ふわふわで、おいしかった