「伊織」
何回目をこすっても、目の前に来てくれた人は速水くんにしか見えなくて
「伊織、なんでそんな目、こすってるの?」
なんて、いつもの速水くんの声がする
ぶつかって、廊下に座り込んだまま、ぽかんとしているわたしの手を速水くんが引いて、優しく立たせてくれた
「ぶつかったの伊織だったんだね、ごめん。急いでて、全然周り見えてなくてさ」
痛くなかった?と効いてくる速水くんに、首を横に振ることでしか返事が出来なかった
周りが見えなくなるくらい急いで来てくれたのが嬉しかった
本当に、速水くんだ
正真正銘、本物の速水くん
そして、速水くんはわたしに白い、小さめの紙を差し出した
「…?」
「手紙。遅れちゃってごめん!」
ガバッとわたしの前で速水くんが頭を下げた
「…なんで…?」
わたしから、勝手に終わりにしようと言ったのに
待ちたい、と思ったから待っていたけれど、こんな勝手なわたしに返事を書いてくれるなんて
期待しつつも、無いだろうなって思ってた
だから自然に口から疑問があふれた