〜立夏side〜
私はパジャマから私服に着替えてリビングにいった。
……ていうか私、どれだけお酒飲んでんの?お花見のときはチョコの洋酒で酔って、今回は水と勘違いして飲んで……。
すると、私服に着替えた健吾が部屋から出てきた。
「……おはよ」
「うん、おはよ」
そして健吾はキッチンにいき、朝食を作り始めた。
「健吾〜、今日の朝食なにー?」
「今日はご飯と味噌汁と目玉焼き」
「やったー! 目玉焼きだー♪」
私は大好物が朝食に食べられるのが嬉しくて、健吾の周りを跳び跳ねた。
「あ、テーブルの上を食べられるように準備しておいてくれない?」
「了解☆」
私は食器棚からお皿や箸を出して並べ、健吾の手伝いをした。
「いっただきまーすっ!!」
私はご飯を口に詰め込んでいく健吾を見つめていた。
わー、すごい食欲……リスみたいに頬が膨れ上がってるし、ご飯粒が口の周りについてるし……
「そういえばさ、舞と付き合ってたときどんなことしたの?」
「え? うーん……ハグしかしてないよ。キスは付き合う前しかしてないし」
「えっ、付き合ってから1回もキスしてないの!?!?」
「まぁお互いに……恥ずかしかったんだろうな。舞……俺がまだ立夏のことが好きってことわかってたらしいし……。あっ、今日どっかいく? 2人でデートに」
「うん、いく!」
「じゃあ9時45分に玄関でよう」
「うん! じゃあまたあとでね♪」
私は部屋に戻ってバッグの中身を準備して、さっきよりオシャレな服に着替えた。
〜♪〜♪
45分になるまで待っていると、健吾からメールがきた。
『よっ。もう準備できた? 水族館いくよ』と書いてあった。私は急いでリビングにいった。
「け〜ん〜ごぉ〜〜っ!!」
私はリビングで待ってる健吾に勢いよく抱きついた。
「ぅおっ!! 立夏どうしたの!?」
「だって〜っ! 水族館好きなんだもーんっ♪」
特にクマノミがっ!!
「よし、立夏いくよー」
「うんっ♪」
私達は家を出て、駅まで歩いて電車に乗った。次に止まった駅ではたくさん人が入ってきて身動きができない状態になってしまった。
「立夏……、大丈夫……?」
「う……ん……」
私達はバラバラにならないように手を繋いで乗り過ごした。
「――次はー猫乃駅ー、猫乃駅ー」
「立夏、次降りるよ」
私達は電車の扉が開いたのと同時に出た。というか、押されて出た。
駅から出て10分後、猫乃水族館に着いた。
「立夏……すごい、満面の笑みだな……。そんなに好きなんだ?」
「うんっ、トビウオみたいに飛び跳ねたいくらいっ!!」
「すごい例えだな……。じゃ、入ろっか」
「うん!」
私達は100円ずつ払って中に入った。
「わあぁぁ……っ! マンボウだっ! あっ、クマノミだ!! キャーッ、タツノオトシゴもいるーっ!」
私は幼稚園児のようにキャーキャーとはしゃいだ。毎回水族館にいくと、いっつもこんな感じだ。
「立夏っ、あまり騒ぐなよ? 周りの人達みんな見てるよ?」
「……あっ、ごめん……」
私は笑いながらそういった。
「あっ、そうそう、12時からイルカショーあるけど、い――」
「いく! 絶対いく!!」
「ぅおっ……立夏の目がキラキラ光ってるように見えるっ……」
「健吾っ、早く広場にいこっ!」
私は健吾の手を引っ張って、イルカショーが始まる広場にいった。広場に着いたが、まだ誰もいなかった。
「やったー! 1番だー♪」
「そりゃそうだろ立夏……まだ11時だよ?」
「んー……じゃあゲームしよ! しりとり!!」
「あぁ、じゃあ……イルカ」
「カ……カルメ焼き!」
「きゅうり」
「リス!」
「スイカ」
「んー……カステラ!」
しりとりを始めてから1時間後。
「…………まぐろ!」
「ろ……露天風呂」
「ロシア!」
「ア……あんぱん! ……あっ」
「健吾の負けーっ!」
「なんか悔しい……あっ、ショー始まるよ」
「わーい♪ イルカッ、イルカッ♪」
広場の入り口から女性の飼育員が出てきた。
「みなさーん! こんにちはーっ! 今日はきてくれてありがとー! 早速、イルカさん達を呼んでみましょう! せーのっ」
「「イルカさーーんっ!!」」
私は大声で叫んだ。
そんなこんなでショーが終わった。
「健吾、楽しかったね! イルカちゃん可愛かった〜♪」
「あぁ、そうだな! ……じゃあもうそろそろ帰るか……」
「うん……」
私達は水族館を出て兎乃駅で降りた。
「……あ、雨だ……私、傘持ってないや……」
「俺もだ……どうしよ……」
「じゃあ走るしかないよね……」
私が走ろうとすると、健吾引きとめて着ていた服を軽く私の頭の上に被せてきた。
「……こうすれば濡れないで済むよ」
「え……でもそしたら健吾が……」
「大丈夫! 立夏の方が大事だから」
健吾はそういってニコッと笑った。
「じゃ、立夏いくよ」
私達は駅から家まで20分かかる道を走った。
「立夏……濡れなかった?」「うん、いく!でも……健吾の服が……。健吾も濡れちゃったし……」「大丈夫だって! 俺、滅多に風邪引かないし。じゃあ、おやすみ」
そういって健吾は私にキスをして部屋に入っていった。
月曜日。健吾とのお泊まり3日目。
「健吾、まだ起きてこないなー……」
すると5分後、健吾が部屋から出てきた。
「あっ、健吾おはよー! ……って、健吾!?」
健吾は咳をして鼻水を垂らして顔を赤くしながらこっちにきた。
「……立夏ー……風邪引いたよ……ズズッ……へっくし!!」
健吾はは足をもつれさせながらリビングのソファーに座った。
「……じゃあ体温計で熱測っておいて、私は学校に欠席するって伝えとくから」
「うん……わかっ……へっくし! わかったよ……ズズッ」
私は2階にある電話機で高校に電話をした。電話をしたあと、体温計が鳴るのを待った。
――ピピピピッ、ピピピピッ
3分後、体温計が鳴った。
38.5℃……
「立夏ー、頭がズキズキするー……」
健吾は起きた時よりも顔色が悪くなっていた。
「……ちょっと待ってて!!」
私は冷蔵庫から冷えピタをだして、健吾のサラサラしてる前髪を手であげて貼った。
「……ひゃっ!! 冷たっ……」
いや、冷えてなかったら意味ないし。私は健吾の隣に座った。
「健吾、食欲ある? 吐き気は?」
「吐き気はないけど食欲はあまり……」
「そっか……じゃあお粥は食べられる?」
「うん、それなら大丈夫かも……」
「じゃあ今から作るね! その間、健吾は部屋で寝てて? 歩ける?」
「うん、大丈夫……」
「あっ、出来上がったら部屋にいくからね!」
フラフラと階段を上がっていく健吾にそういって、キッチンにいってお粥を作り始めた。
……よし、お粥完成!
お粥をおぼんに乗せて私は健吾の部屋にいった。
「健吾ー、お粥できたよー」
「んー……」
健吾はベッドからムクッと起きた。
「はい健吾、あーん♪」
私はお粥をスプーンで健吾の口に近づけた。
「……っ!! だっ、大丈夫だよ、自分で食べられるって……」
「いいの! はい、あーん♪」
「……あ……あーんっ…………」
健吾は少し恥ずかしながら口を開けた。
「どお? 美味しい?」
「……うん、美味しい」
「よかった〜♪ じゃあもう一口♪」
「……いい、自分でやる」
「えーっ……」
私は頬をぷっくりと膨らませた。
「……嘘だよ、早くちょうだい」
健吾はクスッと笑ってそういった。
「……健吾の嘘つきっ、……あーん♪」
私は健吾の口の中にお粥を入れて、健吾は美味しそうに食べている。数分後、健吾はお粥を完食した。
私も昼食を食べ終わり、自分の部屋で日記をつけたり勉強していた。健吾はたぶん、ベッドで寝ているだろう。
16時に家のチャイムが鳴った。ドアを開けると舞、悠太、一穂、有理、朝田、さらに石川先生もきていた。
「あっ、みんな! お見舞いにきてくれたの?」
「……はぁ!? なななな、なんで立夏が滝川の家にいるんだよっ!?」
悠太は私のことを驚いた顔でみてそういった。
「5日間、健吾の家に泊まることになったの。運動会で勝ったご褒美で」
「えーっ!! なら俺も泊まりたかっ……むぐっ!?!?」
「あんたはダーメッ!」
舞は悠太の口を押さえてそういった。
「じゃ、おじゃましまーすっ!」
舞達は健吾の家にあがった。
「健吾っ、起きて! みんながきてくれたよ」
「んー……。おはよ……みんな……」
「滝川、大丈夫か?」
石川先生は健吾の頭をポンポンと軽く撫でて聞いた。
「はぃ、なんとか……明日には学校に行けると思います……」
「そうか……尾崎のおかげだな」
私達はそのあと色々な話をして、舞達は帰っていった。
――そして翌日。健吾の熱はなくなり、私は健吾と一緒に学校にいった。
「舞達ーっ! 一緒に帰ろーっ!」
私と健吾は舞達にむかってそういった。
「あっ、ごめーん、あたし達塾だから……また明日ね!」
「うん、わかった! 健吾、帰ろっ!」
「……あぁ」
「……?」
今、健吾……目が笑ってなかったような……?
まさか……ね。
私達は健吾の家に帰った。そして私は荷物をまとめて私の家に帰った。
翌日。私は家を出ていつも通り学校にいった。
――ガラララッ……。
教室のドアを開けると、私の机がすごいことになっていた。
「え……なに……これ…………!?」
私の机には、マジックペンで汚い字で
『尾崎立夏は男好き』
と書かれていた。
「……ねぇ皆……これ……どういうこと……?」
クラスメートに問いかけるが誰も口を聞いてくれない。目さえも合わせてくれない。私は先生がくる前に文字が目立たないようにした。
休み時間、教室から出ようとしたら男子に足を引っかけられて転ばされ、個室トイレにいくと上から水をかけられた。弁当をゴミ箱に捨てられたりもされた。このようなことが1ヶ月も続いた。
いじめはとても辛い。でもそれより辛いことがある。それは……
クラスメートが誰も助けてくれないこと。
健吾も花恵ちゃんも有理も皆、助けてくれない。先生に相談したい。けどもっと酷くなるかもしれない。
……こんなとき1人でもいいから私に手をさしのべてくれる人がいたらな……
そう学校の体育館裏で体育座りして泣いていると。
「…………お前、こんなところでなにしてんの?」
――――?
声がする方に顔をあげてみると、そこには神城くんがいた。
「……どした? なにかあったのか? 俺でよければ話して」
「……う……うぅっ……うえぇぇんっ…………!!!」
私は神城くんの優しい声を聞いて泣き出してしまった。突然泣き出した私をみて、神城くんおろおろしていた。私はいじめられていることを全部話した。
「……そっか……仲良かった子も彼氏もいきなり……。昨日お前と滝川が休んでいたときにちょっと聞いたんだ。福井瑞菜ってヤツがお前と仲がいい友達全員に、『尾崎さんってね、男好きなんだよ』って広めてたんだ。そのことはクラスだけじゃなく学年全体に広まっちゃってる。皆は信じちゃってるんだ、嘘を。そして滝川……アイツは信じないと思ってたら、簡単に信じやがった」
私はショックでフリーズした。
「……あっ、俺のこと大河って呼んでいいから。あと、メアド交換しない? もし何かあったときに連絡とれるし」
「……うん、わかった、よろしくね大河くん」
私達は赤外線通信で電話番号とメールアドレスを交換した。
「……じゃ、またな。何かあったら遠慮なく俺にいえよ? 俺はお前の……尾崎の味方だから」
大河くんは少し顔を赤くしてそういった。
「うん! またね!」
大河くんは体育館裏から去っていき、校舎に入っていった。
「……私も……そろそろ教室にいこうかな……」
私はゆっくり立ち上がり、教室に戻った。