「チッ……! 見られちゃったか……」
花恵ちゃんは不気味に笑った。
「……花恵ちゃん……何でこんなことを……?」
「……俺の予想だと嫉妬だが」
「黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!」
そう言って花恵ちゃんは私達の腕を掴んで、どこかに連れて行った。
……ここは……2階の資料室……?
そう思っていると、後ろから背中を押されて私と悠太は転んでしまった。
「――いっ……た……」
転んだのと同時に頭に痛みが走った。
「しばらくここでじっとしてな!」
そう言って花恵ちゃんはドアに鍵をかけて走っていった。
「……立夏、どうする? 窓は開いてるけどここは2階だから飛び降りたら骨折するかもだし……。やっぱり助けを待つしかないな」
「うん……」
悠太と……2人きり……しかも密室……嫌な思い出が蘇る……。まさか今回もヤられるんじゃ……
そう思って悠太の方を見てると悠太が私の方を向き、クスッと笑った。
「……今、『まさか今回もヤられるんじゃ……』とか思ってたでしょ? ……ヤらねぇよ。まあ、ヤりたいけど今はこの状況だし。……それに立夏には彼氏……滝川がいるし。ヤったらアイツに殺られるかもだし」
そう言って悠太は笑った。私は胸ポケットから携帯を取り出した。でも画面を見てみると真っ暗。
……電池切れだ。
「……そういえば、さっき嫉妬だかなんだか言ってたけど、どういう意味?」
「……立夏って、本っ当に鈍感なんだな。……立夏と雪野が仲良くしてんのを見て、宮野が嫉妬したって事」
「あぁ、なるほど! ……って、鈍感ですって!?!? 悠太酷いっ!!」
私は悠太を追いかけまわした。すると、さっきの痛みがまたズキッときた。
「――!!」
私はその場で倒れてしまった。
「……立夏? 立夏!? おい! しっかりしろ!! 立夏――」
悠太の声がだんだん小さくなっていくように聞こえる。
私は意識がすぅっと抜けたような気がした。
「――か……っか……立夏……っ!」
目を開けると私の視界には男の子が。
この男の子は……
――――誰……?
見た目はキリッとした目つきで私と同じくらいの身長の男子。
「――!! 立夏……! みんな! 立夏が起きたぞ!!」
『立夏』……?もしかして……私の名前……?
「立夏! よかった、無事で……っ!」
次に話しかけてきたのは、やんちゃそうな顔の男子。
他には、髪の毛を頭のてっぺんでお団子にしてる女子、ツインテールの女子、胸まで髪をのばしてる女子、眼鏡をかけている男子がいた。
私はこの人達にこう聞いてみた。
「……ここはどこ? 私は誰なの? あなた達は……誰なの?」
「――誰って……まさか、記憶喪失……!?」
「……そうらしいな……。君の名前は尾崎立夏。俺の名前は藤野悠太、立夏の元カレで、今は友達だ」
「あたしは雪野舞、立夏の親友だよ!」
「私は本田一穂、立夏の友達」
「あたしは斎条有理、立夏の友達よ」
「……俺は朝田遼斗、立夏の友達だ」
「俺は滝川健吾、立夏の彼氏だ」
――彼氏……?
私、彼氏なんていたんだ……
みんな、少し見覚えがあるけど……
「――で、私はなんでここにいるの? そもそもここはどこ?」
「ここは兎乃高校の保健室よ。立夏が資料室で倒れたって聞いて、行ってみたら本当に倒れてて……」
……何が起こったのか――全然わからない。覚えていない……。
「……一応、立夏のお母さんの所に行って、何が起こったのかをきちんと話そう」
私達は私……立夏の家に向かった。
――ガチャ……
「……立夏おかえりなさい、早いわねー……あら、お友達?」
「……お母さん……私、記憶喪失……なのかも」
「え……!?」
お母さんは目を見開き、驚いていた。舞達は今日あった出来事を全てお母さんに話した。
「……立夏、すぐに病院に行きましょう。……舞ちゃん達もくる?」
「……はい、行きます」
私達は車に乗って兎野原病院にいった。
「……先生……立夏は……この子はどうなるんですか……!?」
「……記憶喪失ですね。薬を1日2錠服用すれば記憶が戻ってくるでしょう」
――よかった……。
「――では、薬を持ってきますので受付でお待ちください」
部屋を出ると、舞達が不安そうな顔をして待っていた。
「――!! 立夏、どうだった……!?」
「……やっぱり記憶喪失だった。薬を服用すれば記憶が戻るって」
「……よかったっ……!!」
舞が私に抱きついてきた。
「立夏、家に帰りましょう」
薬をもらったあと、私とお母さんは家に、舞達はそれぞれの家に帰った。
私は夕食を食べ終わり、さっきもらった薬を飲んでお風呂に入り、自分の部屋にいった。
……私、これからどうなっちゃうんだろう……
友達や親に迷惑かけて……嫌われちゃうんじゃないか、明日私の事を相手にしてくれないんじゃないかって、不安になる。明日の朝、死んじゃうんじゃないかって心配になる。
……そんなことを考えて、私は涙を流しながら眠った。
――翌朝、私は死なないで生きていた。
……こんなにも辛い思いするなら死んだ方がマシ。
たくさんの人から愛され、元気をもらって……でもそこから憎しみが生まれることもある……
人って、なんのために生きてるんだろうね。
だって生まれても最後はみんな死んじゃう。経験したことも意味がなくなる。水の泡になる。
1人死んだって総理大臣とか有名人じゃなかったら世界が変わったり、テレビにも映らないと思う。
……本当に、人間って難しい生き物。
って、なんで私朝からこんな暗ーい話を……?……まあいいや、早く学校にいこう。
私は制服に着替え、学校にいった。
教室に入ると、1人の女の子がいた。
「――……あなたは誰……?」
「はぁ? つか、あんたどうやって脱出したの?」
……この子、不良なのかな?
「わからない。私、記憶喪失だし」
「へーえ……治んの?」
「薬を服用すればね」
「なぁんだ……」
「あんたなんか死んじゃえばいいのに」
………………。
花恵ちゃんはそう言って教室を出ていった。
「…………ほら……やっぱり私なんて……」
なぜか涙が溢れてきた。
――っ……
私は涙を拭いて、自分の席に座って、ボーッとしていた。
……なんか…………どうでもよくなってきちゃったな……。
――ガララッ……。
教室のドアが開いた。
「あれ、立夏早いねー、おはよう!」
有理か……
「……おはよう」
時間が経つと、生徒が教室にどんどん入ってきた。
……なんか……
教室にいるだけなのに……
…………イライラしてくる……
「――立夏っ!」
突然名前を呼ばれてびっくりした。呼んだのは有理だった。
「立夏、今日どうしたの? なんか変だよ?」
「……べつに」
私は有理から目をそらした。
「べつにじゃなくて……、何かあったの? ねえ、教えてよ立――」
私は手をのばしてくる有理の手を打ち払った。
「……っうるさい!! ほっといてよ!!!」
私はそう言って教室を出ていった。……あと少しで授業が始まるのに。