「都樹…。」
「ちょっと待ってろ。どうにかして引き上げるから。」
「別にいい…。」
「は？」
「別にいい！」
「何言って…。」
「こっちに来てから、色々とめちゃくちゃだよ！　周りの人達は皆妖怪だし、皆性格が入れ替わってるし、いきなり彼女になれとか言われるし、友達を亡くすし…こんなの、嫌だよ！　普通でいたいよ！　元に戻してよ！　ねえ！」
「理奈！」

初めて、都樹が私の名前を呼んでくれた。

「だからって、死んでいいのかよ！？　周りの奴ほっといて、自分だけ逃げていいのかよ！　戻れないんだぜ！？　置いて行くなよ！　まだ俺の彼女でいろよ！」

荒げられた都樹の声の中にも、どこか甘さがあった。

「でも私…癒紀にすごい酷いことしちゃったんだよ！？　死んでラッキーなんて思って…こんなのが許されるの！？　認められるの！？　認められるわけないよね！？　だったら死なせてよ！　手、離してよ！」

私は都樹に掴まれていない方の手で、都樹の手を腕から離そうとした。だが都樹も負けじと対抗する。

私は、いてはいけない存在なんだ。その思いが、強かった。

「離してよ！」

ふと、都樹の力が弱まったような気がした。そして、私の体は自由落下を始めた。

あっという間に、体に鈍い衝撃が走る。

これで、罪滅ぼしができる…。

そう思うと、痛みが和らぐような気がした。

そしてそのまま、私は一切痛みにもだえることも、後悔することもなく、ただ癒紀に謝ることができたという嬉しさに似た気持ちを抱きながら目を閉じた…。