癒紀は…一応、私の恋敵でもあった。

私は都樹が好きっていうわけじゃないけど、でももし、都樹が癒紀と付き合うようなことになたら…心のどこかに穴が開くような、そんな気がしていた。

だから、その心の穴を開ける道具が無くなって…ラッキーだ、と思ってしまったのだった。

こう思った時点で、私は自分自身の罪深さを痛感した。私は本当に、腐った人間だ。

私は度を超えた自己嫌悪に陥ってしまい、何も言わずに病室を出て行ってしまった。

「お、おい…。」

都樹の声も、耳に入らなかった。

そのまま私は、家に帰った。そしてドアを閉めると、布団の中に潜って逃げた。

あんなことを、考えてしまった。それが、まるで鉄よりも重い金属でできたさびた足かせのように、私の心に繋がれていた。

私は、罪人なんだ。その意識が、私にまとわりついて離れなくなっていた。

怖かった。私が、怖かった。そのうち、もっとひどいことをしてしまいそうで…怖かったのだ。

「…誰か助けてよ…。」

布団の中で、私は誰にも受け取ってもらえないSOSを出した。自分から病室を飛び出して行ったというのに、私は勝手だ。

案の定、誰も来ない。それが、さらに怖かった。私は、悲しみではなく恐怖で、涙を流していた。

やっぱり、鏡の中になんて来なきゃよかった。自分の意志で来たわけじゃないけど、私はあの日、あの時、鏡を見たことを後悔していた。

こんなに辛いなら…。私は、あることを決心した。とてもとても恐ろしい、あることを。