「えぇと…高校の卒業式以来…ですかね?」
「その後に1回会ってるだろ?確か狩那緋がベロベロに酔って帰った時、俺が家まで連れたはずだが」
すると、虹恋ちゃんの顔が曇った。
「……覚えていたんですね」
「あぁ、俺は酒は強い方でね。記憶はあるよ」
「そう、ですか」
「その子、誰の子?」
俯いて、表情がうかがえない。
俺の予想だと狩那緋との子なのは明白だ。
この子は浮気するようなタイプでもないし。
「……いわないで下さい、カナちゃんには」
「なんで?」
「知らないんです、私が妊娠したって。いわずに別れを告げたんです」
「もう好きじゃなくなったのか」
「違いますっっっ!!!!」
勢いよく立ち上がる虹恋ちゃん。
その拳は強く握られ、かすかに震えている。
「私なんかのために…カナちゃんの未来を壊したく、なかったんです」
「どういうこと?」
「…あの日、カナちゃんすごく酔ってました。機嫌も悪くて。それで、声をかけて…そのまま。覚えてないんです、カナちゃんは」
酔った勢い、か。
しかも記憶が無いとはまた厄介だ。
素直に話せばいいものを。
「もういいんです、カナちゃんのことは。私は、この子がいてくれたら…それでいい」
「そんなに話したくないのか?」
「……カナちゃんには、もっと幸せな道があります。これしか手はないんです」
「そ。狩那緋には今日あったことは伏せておく。ちなみにいうと、狩那緋の人生は全く壊れていないぞ」