「ただいま…」

「おかえり!」

「部屋で休んでるね。今日は疲れた…」

「ええ。ねぇ、虹恋?無理に別れを告げる必要はないのよ?子供がいるってことを打ち明けて、一緒に育てるっていう選択も…」

「もう決めたの。何があっても、この決意だけは揺るがないよ」

そういって部屋へ入った。

ベッドにダイブすると、さっきまでここに寝ていたカナちゃんの香りがした。

優しく笑うカナちゃん。

大きな口を開けて笑うカナちゃん。

怒ったカナちゃん。

少し拗ねたカナちゃん。

眠そうなカナちゃん。

困った顔するカナちゃん。

泣くのをこらえるカナちゃん。

綺麗な涙を流すカナちゃん。

考え事をするカナちゃん。

静かに眠るカナちゃん。

ご飯を喜んで頬張るカナちゃん。

私を褒めてくれるカナちゃん。

浮気相手といるカナちゃん。

まるで別人のようだったカナちゃん。

今まで一緒にいて、たくさんのカナちゃんを見てきた。

どれもこれもカナちゃんとの思い出。

大切な大切な宝物。

カナちゃんとの思い出は、絶対に忘れない。

忘れることなんかできないよ。

思い出と一緒に、前に進むよ。

この子を……立派に育てるからね。

そっとお腹を撫でる。

ここにカナちゃんとの子供がいると思うと、涙が止まらなくなった。

嬉しい気持ちと、辛い気持ちでごちゃまぜになった。

何もいわずにカナちゃんの前から姿を消す。

ほんとにそんなことをしてもいいのか?

素直に話すべきじゃないのか、って何度も考えた。

けど、やっぱり、カナちゃんには記憶がない。

だからこのことは隠さなきゃいけない、って決心した。

この子が成長したら……。

話すのはそれからでも遅くない。

だから、それまでは気づかないでいて。

「幸せに……なって…」

綺麗な夜空に、そっと呟いた。