雑談を挟みつつ行ってきた資料作りも終盤に差し掛かった頃、会議室にコンコンと控えめなノックの音が響き渡った。

扉が開いたと思ったら、顔を出したの関谷さんだった。

「佐藤先輩、お電話です。タイヨウ幼稚園からです」

「タイヨウ幼稚園?」

馴染みのある単語のはずなのに、会社で聞くと嫌な胸騒ぎがする。

「もしかして……弟さんを預けている幼稚園?」

不穏な気配を感じたのは私だけではなかった。

私は椿の問いかけに黙って頷くと呼びに来てくれた関谷さんにお礼を言って自分のデスクへ戻った。

受話器を耳に押し当て、意を決して通話ボタンを押す。

幼稚園の先生と定型的なやりとりを行った後、いよいよ本題が切り出された。

「ひろむが熱を出した……?」

予想外の知らせに驚いて思わず両手で受話器を握りしめる。電話口の向こうで幼稚園の先生は困ったように言った。

<そうなんです。先ほど測ったら37度7分ありまして、迎えに来て頂けます?>

「分かりました。直ぐ行きます」

私は受話器を置くと焦る心をなだめつつ、部長のデスクに駆け寄り頭を下げた。

「すいません!!今日は早退させて頂きます」