田中さんは湯呑にふうふうと息を吹きかけると、ズズズと音を立てながらお茶を啜った。

「亜由ちゃん、前に町内会長が持ってきたお見合いの話蹴ったことがあったじゃない?」

「ああ!!そういえばそんなこともありましたねえ……」

私は思い出したようにポンッと拳を叩いた。

確か、あれはそう……。社会人になる前、私が大学生の頃の話だ。

買い物帰りに町内会長の奥さんに声を掛けられ、知り合いの会社員の方とお見合いしないかと熱心に勧められたのだ。

その場はお茶を濁したものの、何回か家に訪問してきては手を変え品を変え、お見合い写真を置いていったものだ。

結局、弟妹の面倒を見なければいけないことと、まだ学生だということを理由に断ったのだけれど……。

「それがさあ……。折角自分が良い話を持ってきたのに断ったって、相当根に持ってたみたい」

「まさかずっとですか……?」

「逆恨みって怖いわねー」

田中さんは町内会長の奥さんの執念を感じ取ったのか、ぶるるっと身を竦ませた。

知らず知らずの内に恨みを買っていたことに私は全然気がついていなかった。

町内会長さんは両親不在の我が家のことを大変気にかけてくれていたように思えたのに。

可愛さあまって憎さ百倍とはこのことなのか?

不安に襲われ俯いていた私の手を、田中さんがガシリと握りしめる。