惚気を吐いて、寂しそうに笑う弘樹を見て、ホッと胸を撫で下ろした。辛さを宿した目で亜美の事を見つめていた頃の姿が私の中には鮮明に残っているのに。


「あーあ、みんな惚気ばっかり」


悲しい話じゃなくて、甘すぎるくらいの惚気の方が聞いていて気持ちがいいんだけどね。少し前なら、私だけ取り残された気分になっていただろうな。


今、何してるんだろう。家で待っているであろう婚約者の顔が過った。


「真美だって最近惚気てばっかりじゃん。もうすぐ結婚のくせに」


冷静に、けれど楽しそうに笑いながら亜美が指摘する。


本当、みんな惚気てばかり。みんなと知り合った高校時代には、こんな風にこのメンバーで笑いあえる日が来るとは思ってなかったな。


いつ頃だったかな、弘樹のことを完全に吹っ切れたのは。はっきりとは思いだけないけど、分かるのはちゃんとあの頃より前に進んでるってこと。


並んで写る亜美と弘樹を見ても今は、懐かししか感じなくなったことを嬉しく思う。誰にも恋心を打ち明けられなかったあの頃とは違うね。






「一枚の写真を見ても、思い出すことはそれぞれでこんなに違うんだね」


奈々ちゃんがぼそりと呟いた。


「同じ高校って言っても当時はクラスも部活もバラバラで、全く同じ思い出のわけないよな」


「思い出って自分の主観じゃん?一つの出来事でも、思い出は人それぞれに持ってるんだよな」


男性陣の言葉に、うんうんと相槌をうち、断片的になってしまった記憶を追いかける。


「なんか、今日みたいなのも楽しいね。なんていうか、思い出の答え合わせみたいで」


「答え合わせ?」


亜美の言葉をすぐには理解できなくて、首を傾げながら聞いた。答え合わせってどういう事だろう。


「そう、答え合わせ。あの時私はこう思ってたとか、照らし合わせるの。昔言えなかったことでも、時間が経ったからこそ言えることだってあるじゃん」


なるほど、言われてみればそうかもしれない。


「また集まらない?また色々話そうよ。今度は体育祭以外でね。私でも分かる出来事でお願いね」





またの開催を決めるまで、話に夢中で全員グラスが空になっているのに、誰も気づいていなかった。


もっと飲もうよ、と今度は現在の話に花を咲かせていく。まだまだ楽しい時間は続きそう。