「じゃあ弾くよ?」
「うっ、うん」
いつも聞いているはずなのに何故か緊張した。

一つ……また一つ
あっ……今のは少し音はずしたかな
連打がすごい……
テンポすごく速いな
あれ?少し走った?
でも……とても綺麗だな
とても……とても素敵だな

「すごいな……」
私はぽつりとそんなことを言った。
そう言ったときにはもう曲は終わっていた。
「そんな風に言われると照れるな」
片倉くんは頭をぽりぽりとかく。
「ねぇ、その曲なに?」
「この曲?……実は分からないんだ。」
「えっ?」
「小さい頃にね、聞いたんだ。」
あっ……私も同じだ。
「だから……なんかごめんね」
「大丈夫!大丈夫!とても素敵だったから、どんな曲なのかな?って、私も弾いてみたかったし」
「えっ、水沢さんピアノ弾くの?」
「うん……一応」
「なら弾いてよ」
片倉くんはそう言って私をピアノのイスに座らせた。