ピアノの美しい音が聞こえる。
一つまた一つと鍵盤を叩く音。
その音に私は耳を傾け、音の先を見る。
住んでいる人のことは知らないけれど、確かにそこから聞こえてくる。
私はじっとピアノの音が聞こえる家の窓を見る。
そこから聞こえる。
ピアノの音が……。
その時、ピタッと音が途絶える。
私はふと我にかえる。
窓の方を見ると一人の少年が私の方を鋭い目付きで見ていた。
今日も来たのか、と怒ったような顔をしていた。
今日こそは話しかけてみようと口を開く。
「あっ、あの!」
そう私が言いかけたとき、少年は窓のカーテンをかけて見えなくなってしまった。
「あっ……はぁ、今日もだめか」
私はそう言ってため息をつくと、とぼとぼと家に帰ることにした。
もうピアノの音は聞こえなかった。

私と同い年ぐらいの少年。
名前の知らない少年。
でもあの少年が綺麗なピアノの音を奏でている。

「まあ音を聞けただけでもよしとしますか!」
私は指先をかすかに動かしピアノを弾く真似をした。
今日は何の曲を練習しようかと考えながら。