「そうだっ、好きな言葉を言いますっ――」
鏡花の気遣いと同時に、勢い良く口を開くりおん――。
「わたしの好きな言葉は――」
暴走するりおん――。
「好きな言葉は――」
「棚からぼた餅と、なるようになる――」
「それと――」
「さらば――少年の日――ですっ――」
『――――』
「こ、こんなわたしですが――」
「どうか、よろしくお願いしますっ――」
りおんが、深々と礼をする――が――。
「ぐぉつんっっ――」
教卓の天板に、礼のさじ加減を失ったりおんの額が、尋常でない速度で衝突した――。
衝突音が、教室内を駆け巡る――。
微動だもしない、「やってしまった」りおん――。
「ぷっ――あっはははぁっ――」
誰かが、りおんの滑稽な風景に、塞き止めていた感情を吐き出した――。
『ははっ――』
「ヒュー、ヒューッ――」
笑い声達と、「称賛」の口笛がりおんを温かく迎え入れる――。
「いてて――」
額を擦り、ずれた眼鏡を直し身を起こすりおん――。
クラスの雰囲気が、和らぐ――。
鏡花も、「大丈夫」とりおんに寄り添う――。
りおん「らしい」波紋が更に広がってゆく――。
「はぁ――」
波紋の枠外で、頬杖を突き、しかめ気味な目線で外を眺め、独り、リンスロットは苛立ちの吐息という新たな波紋を広げた――。