「いやいや、万引きなんてしませんよぅ――でも今、マジで怒ってくれてアリス嬉しかった――」
無垢で可憐な少女の側面を魅せるアリス――。
純粋なヴェールを纏い、自分を見つめるアリスに、りおんの心と魂は夢見心地だ――。
この段階で、りおんはアリスの手玉に取られている――。
「あっ、44階だよ――」
上昇が止まり、扉が開く――りおんとアリスの躰が交錯し、扉の内と外で再び対峙する――。
「いつでもメールしていいからね――」
扉を抑えながらアリスが言う――。
「うん――」
「それとさ、りおんちゃん――自分は適当だって言ってたけどさ、適には、かなう――当には、そうあるべき事って意味合いもあるんだよ――だから、りおんちゃんがあるべき道にかなう為に自信持って歩んでゆけばいいんじゃないかな――アリスはそう思う――」
「そうだね――」
簡素な返事だったが、二人にはそれで十分――。
「じゃあね――」
アリスが手を放し、扉が閉まる――。
しなやかな笑みを残し、エレベーターは上昇してゆく――。
りおんの魂は浄化された――アリスによって――。
我が家へと歩を進めるりおん――。
「ステッキさん、ちょっと聞きたいんだけど――」
「何だ、りおん――」
胸ポケットから「顔」を出すステッキさん――。
「エレベーターの中だけ時間、止めてたよね――」
「その辺はいいではないか――新しい友を得たのだ、これ以上の喜びはないだろう――」
「また誤魔化して――まぁ、いいや――」
のらりくらりのステッキさんを軽く指で弾き、りおんは玄関に辿り着き、鍵を取り出した時にふと気づく――。
「あれっ――」
鍵を握った拳を顎に当て、りおんは小首を傾げる――。
「どうした、りおん――」
「わたしの名前、どうしてアリスは知ってたのかな――」