私は明友高校1年B組、長澤桃香。

特に可愛いわけでもなく、目立つ存在でもない。
唯一のチャームポイントは、まっすぐ長く伸びた綺麗な黒髪だけ。

そして今日も、何も変わりない、いい天気。

屋上から見上げる空は、澄み渡り、青いキャンパスに白い彩りが広がっている。

学級委員長を務める私は委員会に提出する資料をまとめながら、おにぎりを頬張っている。

「ちょっと、桃香ぁ、聞いてる!?」

「ん…。ん!?あ、ごめん!なぁに?」

「もー!だから!いい男の子知らないって聞いてるのー!」

友達の桐谷真由がイライラした口調で言う。

「いい男の子なんて知らないよ」

私は微笑して言った。

「この学校いい人いないんだもーん」

真由はタコさんウインナーを口に含みながら言う。

「彼氏はどうしたのよ。C組の…平井くん!」

「…んなのとっくに別れたー!
あいつ照れるからとか言ってキスの一つもしやしない!こっちから振ってやったわよ!」

「そうなのね」

しかし私は知ってる。
真由が浮気されて振られた事を。
真由の強がりは、お見通しだ。

「あぁっ。委員会遅れる!
真由、ごめん!またあとでゆっくり!」

「もー。あとで嫌ってほど聞いてよー?」

「わかったよ!」

私はお茶でおにぎりを流し込むと階段をハイスピードで駆け下りた。

ガラガラ!

資料室1。ここが委員会の会合場所。

もう既に皆席についていて、一気に私に視線が集まる。

「お、遅れてごめんなさい!!」

そういいながら席に着く。

クスクス、、と笑い声がするので、私は顔を真っ赤にして俯いた。

「大丈夫…?」

覗き込むように隣の男の子が言う。

「潤。ありがとう、大丈夫だよ。」

副委員長。倉山潤。

少し茶髪のボサボサの髪。
伸び切って目元が見えないがメガネをしている。

制服はブカブカだし。

なんとも言えない男の子。

けど、潤は私の幼馴染。

家が隣同士で、小さい頃からずっと一緒だった。

そして私の好きな人なの……

困らせたくないから「好き」なんて言えないけどね。

「資料、一人でまとめてくれたの?」

潤がボソボソ言う。

「え、うん!」

私は息を切らして答えた。

「…ごめん。言ってくれれば手伝ったのに。」

「いいの!潤には、仕事がんばってほしいから!」

「ありがとう。」

そう。倉山潤は、皆に黙ってるだけで、謎めいた有名モデル、南川龍二なのだ。

勿論、学校の人は私以外誰も知らない。

これは、私と潤2人だけの秘密。

バレたら普通に学校生活を楽しめないといい、潤は変装している。
まぁ、顔を隠すためにここまでするから、陰キャラと見られ、友達はいないっぽいけど。

けど、私は潤のいいとこ沢山知ってる。
ほんとはすごく優しくて、明るくて…誰よりも誰よりも、素敵な男の子。

「お前っていい奴だよな。」

「ほぇ!?」

驚いて変な声を出したので皆が一斉に私を見る。

隣で潤は笑いを堪えてる。

「潤が変なこと言うから!」

私は笑いながら言った。

「ごめんごめん。いい奴桃香さん。」

「怒るよー!」

私と潤は、1番後ろの席をいいことに、笑いあった。

こんな時間が永遠に続けばいいのに…。