「俺もう行くけど、おまえも帰り?」
「寄るとこないし。ウチで勉強でもしてる」

「……相変わらずだな、ニカ」



渚が目を細める。

痛いもの見るような目だったことには気付かないふりをして顔を背けた。




「ニカって呼ぶな」




渚はこのおせっかいな目さえなければ完璧なのに。




「へーへー。じゃ崎谷さまって呼べばい?」
「それでよろしいですよ、水原さま」



馬鹿みたいなやりとりに、ふたりして顔を見合わせてまた笑い出す。



「……じゃね。渚に負けずにゲスいシチュでも考えておくわ」
「おー。期待してるぜー。おまえ勉強ばっかしてんなよ」



適当に手を振るその姿が駅の構内に消えていく。










彼氏じゃない。
セフレじゃない。

ただキスをするだけ。










『キスフレンド』

そんな言葉を知るより先に、あたしと渚はこんな関係になっていた。