渚の家で過ごすことになったその日の午後。


あたしは荒野さんに借りたPCタブレットを使ってネット上にアップされていた数学の難問を解いたり、哉人くんに頼まれて勉強をおしえたりしているうちに夜になった。

夕食は荒野さんがチキンのトマト煮込みとサラダを作ってくれて、それを荒野さん、哉人くん、お父さん、あたしの4人でいただいているときだった。

玄関で物音がしたと思って哉人くんと一緒に覗きに行くと。そこには七瀬由太に抱えられるようにして帰ってきた渚の姿があった。

「渚……っ!?どうしたの………っ?!」

渚はひどく疲れた顔をしていて、いつもラフにセットされている髪はぼっさぼさ、着ているTシャツもよれてシワシワで、頬骨のあたりやおでこは痛々しく赤く腫れあがり、むき出しの腕は痣だらけになっていた。まるで手ひどいリンチを受けた後のような、ボロボロの姿だ。

あたしの脳裏に、最悪の予想が過っていく。

(もしかして………渚は………)

あたしが何を考えたのかすぐに察したのか、渚は血の気が引いていくあたしの顔を見て不機嫌に言ってきた。


「おい、仁花。ちげーし、何早トチってんだ、馬鹿。コレ、べつにあの変態にやられたわけじゃねぇよ」

変態というのは、もちろん聖人のことを言っているんだろう。

「本当に……?本当にアキちゃんにやられたんじゃないの?」

聖人は普段は穏やかでやさしいひとだけど、一度箍が外れると何をしでかすのかわからない人だ。あたしを連れ出した渚に逆上して、不意を突いて渚を襲撃しても不思議じゃない。そんなあやうさがあるひとだ。