「渚、可愛い………」

思わず呟いてしまうと、隣でお父さんが笑ったのがわかった。

「そう、渚は父親の僕が言うのもなんだけど、昔はほんとうに天使みたいに可愛くてね。そんなところも出会った頃のカミさんにそっくりで」
「あの、渚のお母さんは、今は……?」

訊くのも失礼かもしれないけれど、気になってしまって尋ねると、お父さんは微笑んだまま窓の外を指さす。

「ずうっと遠くにいるんだ。今はナイジェリア、その前はイエメンだったかな。イラクやアフガニスタン、そんな紛争地域にも行っているよ」
「………ずっと海外に?」

「そう。医師としてね、長年海外で医療支援に参加しているんだ。……もともとそういう夢があった人でね、結婚に向かないってさんざんプロポーズを突っぱねられたんだけど、しつこい僕の粘り勝ちでね、どうにかカミさんになってもらえたんだ」

そういうと、お父さんは愛おしそうに写真を眺める。

……やっぱりそういう夫婦の形も家族の愛も、あたしには縁遠いものだけど。とてもすてきなものだと、今は素直に思える。

「自慢の奥さんなんですね」
「うん、この僕の最高の自慢だよ。……それにね、子供たちも……渚も僕の自慢だよ」

そういってお父さんはあたしを見詰めてくる。

「カミさんはとてもガッツのある人で、そんなカミさんに顔も性格もよく似た渚も、姉弟の中でも特に負けず劣らずガッツのある子でね。……そんな子が君の力になりたいんだって、僕に頭を下げてきたんだ。僕に迷惑は掛けないから、だから仁花ちゃんを守るために協力してほしいって」


-----渚が、お父さんにそんなことを?


とっさのことで、あたしは何も言葉を返すことが出来なかった。ただ胸の奥からじわじわと熱いものが込み上げてくる。