「……おまえも大変だったな」

バケツの中にあたらしい水を落としていると、渚がしみじみ言ってくる。

「え?」

「その顔にデカい胸とか、そんな男が食いつく最強クラスの武器搭載してりゃ、そりゃ野郎がタカりすぎて今まで煩わしい思いしまくったんだろな」


ぼっちしたがるのも無理ねぇわ、なんて渚は呟く。


「ってか今日俺が揉んだの、上げ底のニセモノじゃなくておまえの自前のだったってことだよな。……そりゃ泣くよな、マジ悪かった」

「………もういいです、それ。……洗い終わったから、ハンガー借りていい?」


今更話を蒸し返されるのもはずかしくてぶっきらぼうに言うと、渚が言った。


「バケツに入れて持ってったら、姉貴があとは洗濯機で脱水と乾燥やるから。……荒野と哉人の単細胞どもがウロウロしてんのに、そんな色っぽいの、あいつらの目の届くところなんかに干しておけねぇよ」

「………うん」


バケツの中に洗ったばかりの下着を突っ込んで立ち上がると、ようやく渚がこっちに振り返った。



「……ってかさ。渚、今日はほんとごめん。生々しいっていうか、いろいろ、グロいっしょ」

「や、隠れ巨乳とか、知って得した気分だけど?」

「………そっちの話じゃなくて。あたしのおにいちゃんのことだよ」


にやっと笑っていた渚の顔から、途端にからかうような笑いが抜け落ちて。真剣な表情になった。


「あいつがおまえが言ってた『聖人』なんだろ」

「………うん。ごめん、変なことに巻き込んで。いくら義理でも、兄妹であんなことになってるとか、正直気持ち悪いっしょ?」


マジな感じで話すには、内容が重すぎて。あたしは自虐するようにしか言うことが出来ない。渚は笑いも怒りもせず、ただ淡々と答える。


「けど事情知って、なんか逆にすこしだけ安心した。おまえの不安定でちぐはぐした印象の理由、すこしわかった気がしたから」



そういって渚は、あたしにキスしてこようとする。