「………ごめん。渚がやってくれたんだ……」

「別にこれくらい気にすんな」

「ほんとごめん。ゲロったのとか、こんな汚いのやらせちゃって。……それに、渚のパーカーも汚しちゃって」



ゲロの始末なんて、たとえ自分で吐いたモノだったとしてもイヤなのに。それを王様にやらせてしまったなんて、申し訳なさでいっぱいだ。

でも俯くあたしに、渚は気負いのない様子で言ってくる。


「いいって。これくらいのことでそんなかしこまるなよ。ウチさ、親父がよく飲み過ぎで酔っばらって帰ってきて、家でゲロするから。この程度の処理くらい慣れてんだよ」


それから慰めるように、あたしの頭をぽんぽん叩いてくる。


「マジ気にすんな。中年親父の酒くせぇゲロよか全然マシだったわ」


渚はほんとうに、全然気にする様子もなくそんなふうに言う。



-----渚って、なんでこんな人間出来てんだろ。



あたしだったら他人のゲロの始末とか絶対イヤだし、うんざりするし、頼まれてもしたくないのに。おまけに自分の服汚されたら、こんな寛容な態度でなんていられないのに。


なんで渚はこんな、「なんてことない」って顔が出来るんだろ。


淡々と「感謝には値しない」という態度を取る渚を見て、あたしは今まで渚に抱いていた気持ちにようやく気付く。




----あたしは渚になりたかったんだ。