「お前、おかしなやつだな。誰も殺しやしねぇよ」


クククッと笑いをかみ殺しながら言うその声に、りえはカーッと赤面する。心の中で言っていたつもりが、口に出ていたらしい。


「俺、三年A組の転校生。国方迅」


「あ、私は二年C組の田村りえ」


真っ暗でお互いの姿が見えないまま、変な自己紹介を交わす。


「そ、じゃぁこのことは秘密ってことでな?」


迅の言葉にりえは「はぁ……」と眉をよせる。


何だか、納得いかない。


「わかったわかった、秘密にするかわりに何かほしぃんだろ?」


「え?」


聞き返すりえの唇を、迅の唇が塞いだ。


再び、声を出せなくなるりえ。そんなりえの頭をポンポンと叩き、「じゃぁな!」とだけ言って国方は資料室を出た。一瞬だけ見える、国方の後姿。


りえはぼんやりとその場に座り込み「ファーストキス……」と呟いた。