まだ、心の準備ができていない。
そう思うけれど、いつまでもそんなことを言ってもいられない。
意を決して振り返った。
目が合うと、ドキドキという心臓の音がさらに大きくなった気がする。
震えてしまいそうになるほどの緊張をなんとか押し込めて、わたしは唇に笑みを乗せた。
「おつかれ、暁くん」
「ん、お待たせ」
わたしの余裕のなさに対して、暁くんはニコリといつもどおりの笑み。
なんだか早くも情けなさを感じながらも、わたしはちょうど空になった紙コップを捨て、荷物を持って立ち上がった。
「もう少し早く上がれたらよかったんだけど……、待たせてごめん」
ドアの近くに立っていた暁くんのところまでたどり着いて一緒に歩きだすと、暁くんは、申し訳なさそうにそう言った。
「わたしが早すぎただけだから」
「いや、でもさ。……もう少し早く来ていれば、あの彼と会うこともなかったっていうか……いや、ごめん何でもない」
途中から声が小さくなってしまった暁くんに、わたしは小さく首をかしげた。