*
「えー? そんなの、あたしだったら自分の家に連れ込んじゃうけどなー」
「!?」
オフィスの休憩室には、わたしと由愛(ゆめ)以外には誰もいない。
カラフルなお弁当の中から綺麗に巻かれた卵焼きを箸で挟み、のんびりとした口調でそう言った由愛の発言に驚いて、飲んでいたお茶を吹きだしそうになってしまう。
そんなわたしに由愛は不思議そうな顔をして、肩にかかるくらいの長さでそろえられたキャメルブラウンのウェーブがかった髪をふわりと揺らし、首をかしげた。
「どうしてそんなに驚くの?」
「だ、だって!どうしてそうなるの!?彼女でもないのにっ」
この前、暁くんと初めて二人で飲みに行った。
結局あのあと、近くのダイニングバーに入って1時間くらい飲んでから、暁くんはわたしを家の前まで送ってくれて、そのままタクシーで帰って行った。
一軒目を出た後にいきなり抱きしめられたときはびっくりしたし、もう少し一緒にいたい、なんて言われてときめかないわけがなかったけれど、その後の暁くんはすっかりいつも通りで。
あれ、この人さっきわたしのこと抱きしめてきたよね?
なんて思わず首をかしげたくなってしまうくらい、同期の距離に戻っていたんだ。