一体何がどうなったのか、すぐには理解できない。

羽織っている薄手のカーディガン越しに伝わってくる体温が、とても熱く感じる。

鼻腔をかすめるのは、彼自身の優しい香りと、ほんの少しのアルコールの匂い。

強く回された腕に、細く見えてもやっぱり男の人なんだと嫌でも実感させられて。


────そこまで考えてようやく、自分が暁くんに抱きしめられているのだと分かった。


「っ!?」


驚きすぎて、言葉なんて出て来ない。

抵抗なんて尚更できるわけがなかった。


……どうしてこんなことをするの?

その疑問だけが頭の中でぐるぐると回っている。


それでもわたしは何とか気合いを入れて、暁くんの胸を押すようにして離れようとしたけれど。

それより先に、暁くんがわたしの身体に回していた腕の力を抜いた。

ゆっくりと離れていく暁くんの顔を見上げると、どうしてか痛みをこらえるような表情をしている彼と目が合う。

まっすぐにわたしを見る暁くんの瞳に、わたしはまた、何も言えないままだった。


「ごめん。……あのさ、もう少しだけ一緒にいて欲しいんだけど」


今まで聞いたことのなかった、暁くんの少し強張った掠れた声に、わたしは抗う術なんて持ち合わせていない。


……今のハグはなんなの、とか。

終電はいいの、とか。

彼女に怒られないの、とか。


本当なら、確かめなくちゃいけないことがたくさんあったはずなのに、わたしは何ひとつ言葉にできなくて。

ただ、小さく頷いた。