「大登さん、ごめんなさい。キスが嫌だったわけじゃなくて、まだ慣れなくて驚いたというかなんというか……」

私は何を言っているんだろう。キスが嫌だったわけじゃないって、これじゃあ拒否した意味がないじゃない。

自分の馬鹿さ加減にへたりと座り込むと、俯き大きなため息を漏らす。

「わかってるよ。まったく、薫子は可愛いね。可愛すぎて、つい苛めたくなっちゃうんだよなぁ」

ぽんと頭に手を乗せられて顔を上げると、ニヤッと笑う大登さんの顔。

「え?」

なんで、ここで笑う。大登さんは私にキスを拒否されて、悲しんでるんじゃなかったの? 大登さんのしていることが、サッパリわからない。

それに今、私のことを可愛いって言った? しかも可愛すぎて苛めたくなっちゃうとか……。大登さんの言うことが、ますます理解できなくなる。

「薫子には難しかったか? 愛情の裏返しってこと。ったく俺は、小学生のガキかよ」

大登さんの顔をじっと見つめる私にそう言うと、少し照れくさそうに首の後の辺りをガリガリと掻いた。

「愛情の裏返し……」

そうボソッとつぶやくと、昔ひとつ上の兄から聞いた話を思い出す。

小学生の頃の男の子は好きな子を前にすると素直になれず、つい苛めたくなってしまうと。それはスカートめくりだったり消しゴムや鉛筆を隠してみたり、照れくささが邪魔をして相手が嫌がることばかり。でも少しでも好きな子と関わりを持ちたくて、そんなことをしてしまうんだと。

もしかして、それと同じ?