自分が言わせたくせに驚くなんて変な人。
八木沢主任に少し顔を近づけるとハッとした顔をして、私から目をそらす。
「ヤバい、効果てきめんだな」
そう言う八木沢主任の顔も少し赤い? ヤバいとか効果てきめんとか、何を言っているのかサッパリわからない。
でも『大登』と呼んでみて、思っていたほど嫌な感じはしなくて。八木沢主任と少し近づけたような気分になっていたりするから、私もちょっと驚きだ。二次元好きの私が三次元の男性を名前で呼ぶ日が来るなんて、母親が知ったら腰を抜かすんじゃないかしら。
その状況をひとり頭の中で想像してふふっと笑っていると、ふいに八木沢主任が私の身体を抱きしめた。
「何ひとりで笑ってるんだよ。なあ薫子、もう一回俺の名前呼んで」
八木沢主任の甘えるような声に、身体の力が抜けていく。
「い、一度でいいって言いましたよね? 八木沢主任、ズルい」
「ムリなのか? っておまえ、また八木沢主任って呼んでるぞ。大登って何度言えばわかるんだよ」
私だって別にバカじゃないから、そんなことくらいわかってる。でも照れくさかったり意地があったりして、素直になれないってことって誰にでもあるでしょ?
今がそんな状態なんです。
でも私のそんな事情をしらない八木沢主任は、なおも攻撃を続ける。