そんな彼女と話す機会は突然やってきた。


それが今だ。


あまりに唐突すぎて、僕が彼女に発した最初の言葉は「え…?」だった。彼女が至近距離で乗り出すようにして頬杖をつき、僕を覗き込んでいた。


びっくりして立ち上がって後ろの机にかけようとした手は空を切った。

「瀬田君っておもしろいのね」


そう言ってクスクスと笑う彼女が僕から見上げた位置にいるということはどうやら僕は転んだようだ。


「え…あ……え?矢野さん?」


数秒フリーズしてやっと搾り出した言葉はそんなちんけなものだった。"あ"と"え"と固有名詞だけで構成された高度な質問を矢野さんは全て汲み取った。


「鍵。瀬田くんだけだと心配だからって先生が私に見てきてくれるように頼んだの」


彼女は いたずらっ子のように綺麗に笑うと
机の上に置いてあった本来なら僕が閉めるはずのソレを、ゆらゆら揺らした。