コン、コン



「ルミちゃん、今いいかな?」



 控えめなノックと、取り敢えずと言った感じの挨拶を済ませ、病室に入る。



 ここの看護師や医師たちには彼女を病室から出すなと、そう言ってある。この街ではオーリングの言ったことは大体の人間はなんの疑いもなく聞く。証拠に、つい先日あった時には「この部屋から外に出してくれない」とルミ自身がぼやいていた。



 では、これは?



 オーリングは目を見開く。



 そこに彼女はいないから。



 ベッドに近づき確かめるが、誰もいない。
 息を呑む。まさか、と冷や汗が流れる。



 オーリングは近くにいる看護師を捕まえ、問いただす。



「彼女は、ルミはどこだ!!?
何故外に出した!!」

「えっ、な、何事ですか??
ルミ様ならベッドでお休みに......」

「だからっ!いないだろ!?
説明しろっ」

「ですからっ、そこにいらっしゃるじゃありませんか!」



 は?と必死の形相のオーリングは状況が飲み込めず固まる。突然怒鳴るように詰め寄られた看護師は半泣きでベッドの方を見ている。



「.........本当に、いるのか?」

「はいっ、いらっしゃいます!」

「.....................分かった、もういい」



 怯えきったその看護師は逃げるようにその場を立ち去っていく。



 オーリングは考えた。



 俺には見えない。が、あの看護師には見えている。



 この部屋には一時間ごとに見回りに来るように行ってあるうえ、ルミが外に出ていかないよう国王の分身も借りて見張っていた。



 国王シルベスターは風属性魔法の使い手。彼の分身、すなわちそれは『風』そのもの。その存在を知るものはそう多くない。
 風と会話をすることのできるシルベスターは様々な情報を誰より早く手に入れることができるため、万が一に備えその力を借りたのだ。



 だが、そういった情報は降りてきていない。つまり、ルミはこの部屋から出ていない。



 だとすれば考えられるのは一つ。



 彼の目には見えていない、だが他の者には見えている。



 いや違う。



 見えているようで、実は見えていない。



 そこに【有】ようで、そこには【無】。



 それは『影』



 彼らに見えているのは、ルミの『影』



 ならば、彼女いる場所はあそこしかない。







 彼には見えないそれに背を向け




 オーリングは歩き出した




 ーーー『影の部屋』へと