「.........はあ、はあ、はあっ.........」



 病棟を出て、城内に入ったかと思われた頃



 かなりの道のりを歩いたからか、何度も階段の上り下りを繰り返しているからか。はたまた、まだ魔法の影響が残っているのか。



 息が上がってしまい、眩暈までしてきた。
 壁を背にズリズリと崩れ落ちるように座り込んでしまう。



 ルミの異変を察知したのか、エンマがひょろひょろと近寄って来る。



『ルミ様、大丈夫でございますかっ』

「.........うん、ちょっと.........はあ、待ってて............はあ、はあ...」



 苦しそうにそう言うルミにエンマは更に近づき、そっとその手で背を撫でた。丁度銃弾が当たった近く。小さすぎて存在感のないエンマの手が優しくさする。



「............はあ............はあ」



 すると、少しずつ汗が引いていき、呼吸が落ち着き始めた。ほんわりと背中が暖かくなっていく。もしかして。そう思い、視線をエンマに向ける。



「.........エンマ?」

『...ルミ様、申し訳ございません
エンマめにはノア程の治癒力はございませぬ故.........』



 表情は分からないが、申し訳なさそうに頭を垂れる姿が何とも愛らしい。ルミはクスリと微笑み、優しく見つめた。



 そのまま数分休んだ後



「.........ん、もう大丈夫。行こう」



 そう言ってルミは立ち上がった。
 エンマは、きっと表情がわかるのならば、心配そうな顔をしていたに違いない。だが彼女の笑顔を見て、エンマは「はい」と頷き、再び歩き始めたのだった。



 壁伝いにだがゆっくりと着実に進み続け、本当に城内か疑う程に人気はなく、殺風景な通路だけが残ってしまった。



 道が別れているわけでもなく、ただただ真っ直ぐに続いている。どこに向かっているか、どこに続いているか全くわからない。それでもルミはエンマの後を無言で付いて行った。



 ルミの靴音だけが響く、長い長い通路。
 そしてその最後にあったのは



 真っ黒な“扉”。



『ここは、選ばれた者のみが入ることを許された部屋。心に闇を抱えた者はその存在すら知ることはない。”光“と共に存在し、”闇“を許さぬこの部屋の名は』






ーーー“影”の部屋






その言葉と同時にルミの目の前で、その扉が開いていった。