あの子、ホントに他人の話に首つっこむのが好きだからさ、と付け加えた。

「五十嵐くんが理解者でよかったわね」

北野さんはうなずきながら言う。

金曜日ということもあって、疲れきってはいるけど、どこかうれしそうに駅方面へ歩くOLやサラリーマンの姿が目立った。そういえば、高清水さんも栗林さんも楽しそうだ。

素敵な週末をこれから過ごすのだろう。

「派遣の顔合わせの前に、むつみちゃんの顔写真を見て、運命の人だなんてつぶやいちゃってたから」

あははと北野さんはから笑いをした。

「あの子、情熱的で、まっすぐ過ぎるところがあるから。扱いにくくて、操縦しにくいかもしれないけど、それがいいのかもしれないわね」

北野さんのやさしい笑顔に、諭す声に、心が救われる。

「前にバーで告白されちゃってさ。好きな人がいるって言ったらすごく荒れたのよ」

一瞬きつそうな表情をしていたのはそのせいだったのか、と納得した。

「でもすぐ冷めたけど。不思議ねえ。どうしてなんだろうね」

北野さんはいたずらな目をして笑う。私のこと、見透かされているんだろうか。

「秘密の恋は燃え上がるわね。それじゃ、お疲れ様」

クスっと笑って北野さんはビルの中へと入っていった。

自宅に近づくにつれ、胸の鼓動が激しくなる。

軽くシャワーを浴び、クローゼットの奥から黒いドレスをとる。

いい思い出も悪い思い出も吸ったこのドレスを着るのに、ためらいを感じたけれど、着慣れたドレスはしっくりと体になじんだ。

しばらくして、チャイムが鳴る。

ドアを開けると、水色のYシャツに茶色のチノパンのラフな格好に眼鏡姿の所長が立っていた。

「迎えにきましたよ。僕だけのシンデレラのむつみさん」