「……私。嘘ついてました」

靴音がこちらへ戻ってくる。

所長はわたしの目の前に立ち、目線だけ下ろした。

「ここまで私のこと、想ってくれる人なんていなかった」

涙がこぼれおちても気にしなかった。

こんなくしゃくしゃでたいした魅力もない自分をさらけ出して所長に嫌われて当然だ。

「私なんて恋する資格なんてないと思ってた。それなのに、五十嵐さんはずっと私のこと気にかけてくれてて、その気持ちよくわかってたのに」

体の奥から絞り出すように言葉を口にする。

きっと所長はあきれているんだろう。

「気持ち、よくわかりましたから。泣かせてごめんなさい」

所長はしゃがみこみ、私の頬の涙を細く長い指ですくいとった。

せつなそうな顔を浮かべて、迷惑をかけたな、と心が軋む。

「そんな顔、しないでくださいよ。僕も言いすぎました」

「ごめんなさい……。所長に黙っていたことがあって」

所長はかなしそうな顔をして黙っている。

手の中にあるネックレスを握りしめた。

「大和……、これをくれた男から、誘われてるんです。ライバル社の人間を紹介するって」