「この間のキスのこと、まだ怒ってるんですか」

「そうじゃなくて」

「僕には秘密の用事ですか」

「……別にいいじゃないですか」

「そうですか。ネックレスの飼い主のところへ行くんですか」

そういうと、上着のポケットから何かをまさぐり、床に投げつけた。

「これは……」

「拾えばいいんじゃないですか。そんなに飼い主のところへいきたければ」

「飼い主だなんて」

爪先に転がる銀色に光るネックレスがある。

しゃがみこみ、ネックレスを拾い上げた。

「むつみさんには正直、がっかりですよ」

そう言い放つと所長は振り向きもせず、まっすぐエレベーターホールへと行ってしまう。

手の中には切れたネックレスがぐったりと横たわっているかようで、それを見て涙がこぼれた。

まだ所長が持っているとは思ってもみなかった。

「……五十嵐さん!」

所長の靴音がぴたりと止まった。