次の日も普段と変わらない気持ちで職場に向かう。

少し扱いづらそうな顔を高清水さんがしていたけれど、それでも普通に仕事をまわしてくれたし、北野さんもあの件がなかったかのように接してくれた。

行き帰りも所長と顔を合わせずに仕事ができたことだけでも、まだよかった。

金曜日になり、仕事が終わり、明日のことで頭がいっぱいになっているところでエレベーターを降り、玄関ロビーにさしかかるところで所長と蜂合わせた。

「お、おつかれさまです」

すっと所長の横を通り過ぎたとき、所長が私の左手首をつかんだ。

走り出そうとしていたのに足がとまり、つまづきそうになった。

「どうして逃げるように帰るんですか」

静かに淡々とした声で所長は話す。

所長のやさしい顔はどこかへ消え、ただ冷たい視線が私に降り注いでいる。

「何か隠してませんか?」

「え、何が?」

「変ですよ。むつみさんの態度」

「そんなこと、ないですけど」

はあ、とため息をつくと、所長はつかんだ手を放した。

「週末は僕と過ごしてください」

「えっ」

「何か予定でもあるんですか?」

「だから、決めつけないでくださいよ」