かあっと顔がほてり、全身が震える。

所長の冷たいまなざしを受けてさらに硬直してしまう。

「だって、それは」

「もういいですよ。今日はお疲れ様でした」

静かに沈むように話す所長を尻目に私は事務室をあとにした。

営業所のビルを抜けて、自分の体の力も抜けた。

派遣会社にキスされたことなんて、言えるわけがない。

それこそセクハラになってしまって、所長の処遇も悪くなる。

せっかくの出世も私のせいで台無しになる。

もしかして、私を守るために、わざとキスなんかしたんじゃないだろうか。

そんなことはない。自分に都合のいい言い訳だ。

私に今できることは仕事をまっとうに遂行すること。

契約に従事することが派遣の務めだ。

派遣期間が来たら速やかに辞めよう。

それまでに資格でもとって別の仕事を開拓していこうか。

そんなことを、ぶつぶつ独り言のようにつぶやきながら、自宅マンションのドアを開け、部屋の中に入る。

カバンを肩からおろしたところで、スマホが鳴った。

案の定、画面表示には大和の名があった。

「もしもし、大和」

「この間はごめんな」

「何が。今、忙しいんだけど」

「お礼がしたいんだよ」