所長が大声で叫んだ。事務室に響き渡る声に体が反応し、入口で立ち止まった。

「勤務表出し忘れてるでしょう」

「あ、すみません」

所長の顔を見ないようにして、机の引き出しから勤務表を取り出し、記入した。

自分から所長に向かうのはとても恥ずかしい。

空気が重苦しく早くこの場から立ち去りたかった。

「別にこの間みたいなことはしませんよ」

見上げた所長の顔が涼しげだった。

私の気持ちを見透かしたかのように、すっと勤務表を取り上げると、印を押し、私に差しだした。

勤務表を取り、引き出しに戻すとパソコン越しに所長が話しかけた。

「先ほど、派遣会社から電話がありました」

「そう、ですか」

「たいへん不安そうでしたが、と担当者の方がいっていましたけど」

結局不安の種をまいたのは自分自身なのだ。

「キスの件は報告しなかったんですか」