料理をおぼんを使って居間のテーブルへ運ぶ。
すると呼んでいた医学書から顔を上げて、並んだ料理を褒めてくれた。
「あ、あぁ、ありがとう。すごいな、意外と料理できるんじゃないか」
「静かだなーと思ったら、ずっと読んでたんですか?」
「あぁ、ちょっと飲みながらね」
そう言いながらおちょこをお茶目に顔の横に持ってきた。
少し酔っているようで、顔がほんのりピンク色だ。
「ちょっとって、昼間から何飲んでるんですか。まさか休日はいつもこんな感じなんですか」
「まぁ、大体はね」
「他に趣味とかないんですか?」
「あ、今寂しい大人だと思っただろっ」
いつもより少し陽気な先生の新たな一面が見れて思わず顔が綻んだ。
上手い、上手いと次から次へと料理に箸をつけ口に運んでいく。
そんな姿を見るだけで胸がいっぱいになった。
「今度は何が食べたいです?」
「今度があるのかい?」
「えぇまた来るつもりです」
「もう何度も言ってるけどさ、こんなおっさんの相手をしてる場合じゃないだろ」
「それ聞き飽きました」
「何を血迷って俺なんか好きになったんだか知らないけどさー。君の想いには応えられないから、さっさと諦めなさいよ」
「それは奥さんが今でも大切だから?」
酔って饒舌になった先生、そのノリですんなり答えが返ってくるかと思って投げつけた質問。
しかし突然の意表を突いた問いに、先生は押し黙ってしまった。
そして少し間を置いた後、観念したかのように語り出した。
「あぁ、どうしても理津子が忘れられないんだよ、情けないことにな」
そう言うと、自嘲気味に力なく笑う彼。