「そんな時に薬を飲んだらすごく楽になって。そしたら、毎日毎日、気持ちが落ち着くまで飲むようになって……。そしたら、今日気付いたら病院に運ばれてて」
ぼそぼそ言う私に彼は口を挟めることなく、ただ静かに聞いてくれた。
こんな弱音を人に吐くのは初めてだ。
彼は考え込んだ後、しばらく間を置いて口を開いた。
「……もう、薬飲むなって言っても飲むんだろうな」
それに私は何も答えられなかった。
「とりあえず、また、薬を飲みたくなったら連絡ちょうだい。迎えに行くから。どうしたら薬が必要なくなるか一緒に考えて行こう」
そう言われて、はっとして顔を上げる。
彼はいつもとは違う、嫌味のない穏やかな微笑みを浮かべていた。
思わずまた少し涙が出るかと思った。
優しくされるのになんて慣れてないから、こういう不意打ちは困る。
どうしてこの人は、こんなどうしようもない私にここまで優しくしてくれるのだろうか……。
「おいで、一緒に寝よう。一人で寝るとまた泣くだろう」
「……っ」
彼によこしまな気持ちなんてないのは分かってる。
だけど、安生先生のこともあって男の人に触られるのが過敏になってる。
それに元々、男嫌いだったというのもあって、一緒に寝るなんてとてもじゃないけど……。
「あ、あの、私、どっちにしても泣くと思います。ほっといてもらって大丈夫なので」
「はいはい、そう言わずに。女の子が泣くのは嫌なもんなんだよ、泣くならせめて腕の中で泣いて欲しいもんだ。大丈夫、何もしないから」
腕の中に引き入れられ、腕が背中に回された。
その途端緊張で、全身が硬直する。
だけど、過度の緊張からか涙が出る余裕なんてなかった。
どっちにしろ、今日は眠れないんだろうと覚悟した。
彼はそんな私をよそにすぐに眠り始めた。
……きっと、疲れていたんだろう。
今日は私のせいで遅くまで病院に残っていた。
それなのに私を家に招いて、途中で起きてまで話を聞いてくれた。
申し訳ない気持ちと、感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。
規則正しい穏やかな寝息、とくんとくんと静かに波打つ心臓の音が心地良い。
ほんのり香る洗剤の香りと温かい彼の体温。
緊張が解れていく。
人の体がこんなに気持ちのいいものとは思わなかった。
それも苦手な男の人の体だ。
私は身を預けるように彼の胸元に頭を埋めた。