<side 栞>
女性にだらしなくて、いつもちょっかい出して来ては私の気持ちをかき回していく。
……そんな人だと思っていたんだけど。
まさか、あの雨の中私に声をかけて車で送ってくれるとは思わなかった。
しかも雪になって、家に泊めてくれるだなんて。
私なんて患者とはいえ、所詮無関係の人間。
送っていけないと分かった時点で、そこら辺に放っぽりだしてもよかったのに。
もしかして何か下心でもあるんじゃ……なんて、ふと頭をよぎったけど。
本当に私には興味がなさそうだった。
女性にだらしないとは言っても、誰彼構わずという訳ではないらしい。
相変わらず言葉遣いは粗暴だけど、こんなに面倒見が良くて優しいとは思わなかった。
あったかい部屋で、あったかいご飯が体に入っていく。
久しぶりにまともに食べたご飯。
彼が作ったお粥はとても美味しかった。
ほかほかして、体の中から温まっていくようだった。
「おいしい」
おのずと出た言葉、初めてここに来て緊張が和らいだ瞬間だった。
思わず自然と顔が綻ぶ。
そんな様子を見て、彼は一瞬驚いたように見た後優しく目を細めた。
その後、彼は寝室で、私はリビングに用意してもらった布団で寝た。
暗闇の中、ちくたくとだけ時計の針の音だけが響く。
布団の中で、ゆっくり目を閉じた。
……きっと今日は眠れないだろう。
いつも寝る前は眠剤を飲んでいたのだから、眠れる訳がない。
あぁ、やだな……。
以前、安生先生から触られた場所が疼く。
すると決まって、どうしようもない不安に襲われるのだ。
まるでそこから、不安が生み出され大きくなっていくように。
いつも夜になると考え事をしている訳でもないのに、こうやってただ漠然とした不安に襲われた。
もう自分でも何が何で不安なのかさえ分からない、どうしようもない憂い。
こういう時すぐに強い抗不安剤を飲んで誤魔化してきた。
でも今日はそれがない……。
眠れなくていい、せめて泣いてるのがバレないように布団をかぶった。