<side 宗祐>
未結が受診しに来たあの日。
左手の薬指には指輪が光っていた。
それが数日経った今でも脳裏に張り付いて離れない。
食堂で、同じ脳外科に勤める藤沢と並んで昼食をとる。
藤沢とは同い年の同期で、同時期にこの病院に入職した。女だけど、さばさばしていて付き合いやすい奴だ。
しかし奴は俺と違って、国立の医大を出たいわゆるエリートってやつで。
最初こそ、とっつきにくかったものの今では時々2人で飲みに行ったりする間柄になっていた。
まぁ、大体藤沢に強制的に連行されるんだが。そして今日も最初は1人で静かに食べていたのに、こいつが断りもなく隣にやって来た。
「あんた、また、看護師に誘われたんだって?」
「……」
「ちょっとシカト?」
「……お前は毎回、どこからそういう情報仕入れてくるんだよ」
「外来の鈴原ちゃん。あの子なんでも知ってるからさ」
外来の鈴原という名前を聞いて、20台後半の少しふくよかな看護師を思い出す。
……今度から用心しとこう。何を噂されるか分からないからな。
「で、どうするの?行くの?」
「どうするも、なにも行く訳ないだろ」
うんざりしながら、天ぷらそばをすする。
すると藤沢が隣でため息をついた。
「まったくそんなんだからホモだって言われんのよ」
「……は?」
「知らないの?あんた誘いに乗らなさすぎて、女には興味がないホモだって噂たてられてんのよ」
「なんだそれ」
「ま、一番決定的だったのは、あの可愛い受付の上杉ちゃんをフったのが大きいよねー」
受付の上杉?
……あぁ、あの子か。
前に確かに告白まがいのことを言われた気がする。
しかし、可愛いと言われるとピンと来ない。
今の若い子は皆同じ化粧で、同じ顔のように見えるもんだから。