「……そうですね、そしたら俺とりあえずここから出るので、その間に栞を帰せますか?」
「それしかないな。ったく、面倒事に巻き込みやがって。あとで何か奢れよ」
「すいません」
そう言って頭を下げて出て行った桐山に、再度深いため息をつく。
はぁ、今日は何て厄日だ……。
「で、そういう訳だから起こしてくれる?」
傍らにいた秋山にそう言って一緒に処置室へ向かう。
「望月さん、帰れそうですか?」
秋山が優しくとんとんと肩を叩いて声をかける。
しかし、彼女は未だ深い眠りの中のようで、目を開ける様子はない。
点滴は十分に入ったはず、もう目を覚めてもいいはずだ。
「望月さん、帰れますね?」
そう言って、彼女の細い肩を無遠慮に揺らす。
彼女が起きないことには俺も帰れないのだ。
さっさと起きてもらわないと困る。
「ん……」
泣きすぎて赤くなった目の淵。
やっとその瞼が重々しそうにゆっくり開いた。
「よし、起きたな。もう帰らせていいから、でこいつ帰ってから当直呼んでやって」
「桐山先生のお知り合いのようですね。分かりました、彼女が帰ってから先生を呼びます」
「お、さすが察しが良いね。じゃ、いい加減俺ももう上がるから、あとよろしく」
そう言って、片手を上げて処置室を後にする。
あーあ、だいぶ遅くなっちまったな。
あとできっかり残業代つけてやろう。
さっさと着替え、駐車場へ出る。
うっわ、寒っ。
外に出て、思わず凍てつくような寒さに身震いする。
てか雨降ってんじゃん。
傘なんて持ち合わせていなかったため、仕方なく車まで走ることに。
つめてーな、くそ。
しっかし、冬に雨ってなんと鬼畜な。
これ、もう一時間しないうちに雪に変わるな。
タイヤまだスタッドレスに変えてねぇし、さっさと帰んねぇと……。
俺は急いでエンジンをかけて、病院を後にした。