いやぁ、驚いた。
人間ってここまで変わるんだな。

なんて感心していると、夜当直のドクターが少し遅れてやって来た。

さっさとバトンタッチして帰ろうとしたが、そのドクターを見て思わず固まってしまう。


「黒瀬先生、すいません遅れました……っ」

息を切らしてやってきたのは、隣の処置室で寝ている奴の失恋相手張本人。

……ははは、よりによって、今日の当直が桐山とはな。
もう怖すぎる偶然に笑うしかない。


「そういえば、お前腰大丈夫かよ?」

「え?」

「えって、鍋かぶって火傷したらしいじゃん」

「なんで黒瀬先生が知ってんすか……っ」

「え、だってあの高城のおっさんが面白おかしく言いふらしてたぜ。お前の尻見たってな」

「はぁ?」


いやいや、こんな下らない話をしている場合じゃなかった。


「先生、望月さん目が覚めたら帰ってもらっても大丈夫ですか?」

事情なんて露知らない秋山が、処置室から顔を出して聞いてきた。


「あ、あぁ」

「誰か来てるんですか?」

そうカルテに目線を落とした先には、見知った名前。
えっ、と目を見張る桐山。


「えっ、栞が来てるんですか?」

……あーあ、もう誤魔化しきかないか。

「……ODしたらしくてな、薬中で来てるけど。大したことない、もう帰れる位だ」

「ODっ?」

更に困惑した様子で、隣の処置室へ様子を窺いに行こうとする奴の腕を掴んで止めた。
ったく、もうこうなると思ったよ。


「お前が行ってどうすんだよ」

「どうするって……」

「お前が心配する気持ちも分かるが、あいつに気持ちがない以上何もできねぇだろ」

「……っ」

「優しく心配されてもな、今のあいつには辛いだけだ」


あーあ、なんであんな奴のために俺がここまで気遣ってやってんだ。
だけど、あの泣き顔を見てしまうと、なんとなく無下にもできない。