「……だけど今日は、まさか黒瀬先生が胃洗浄までやるとは思いませんでした。朝からずっとぶっ通しで今の今までOPE、終わってからも残り当番。しかもあともう少しで帰れたというのに自ら厄介な残業するなんて」

「よく把握してるねー、俺のこと好きなの?」

「皆一応これ位は把握してますよ。先生の疲労加減で機嫌が左右されますからね。とは言っても、黒瀬先生はいつも変わらないですけど……、だから、今日はちょっとびっくりしました」

「あぁ、やっぱバレてた?」

「まぁ、あんなに苛々してるの初めてでしたから」


おかしいな、この看護師とはあまり一緒に働いたことないんだけど、以前から俺を知っているかのような口ぶりだ。

そして俺も以前から彼女のことを知っているような気がするんだが、今いち思い出せない。


「あんた、ここの病院何年目?俺らもしかして前から知り合いだったか?」

「なんですか、その分かりやすい誘い文句」

「いや、マジで」

「5年目です、前から知ってて当然ですよ。私、前はずっと外科にいましたから」

「え、外科っ?」


それなら絶対に分かるはず。
しかもスタイルの良い結構な美人さんだ。

あぁ、それなのに全く思い出せないとは一体どういうことか。


しかし、ネームプレートを見てようやくはっとする。

秋山。

外科の秋山と言えば、俺の中じゃ印象深いあいつしかいない。

いやでも、まさかあの秋山な訳……。
目の前の彼女とは似ても似つかない。

しかし、思い当たる節が他にないもので恐る恐る尋ねてみた。


「なぁ、まさかあの秋山じゃないよな……?」

「あのって失礼な。その秋山ですよ」

少し照れくさそうにそう言う彼女に、目を見開いて驚く俺。

「えぇ、嘘だろっ。全然分かんなかった」

まるで見違えた。
だってあの秋山といえば……。


「あの頃からだいぶ痩せましたから」

そうまんまるのおデブちゃんだったから。
よくその体型をいじってからかったもんだ。