「どいて、私がつくから」

若い看護師をどかして中堅ナースが俺に物品を渡す。

「ねぇ、さっき、そこまでするって言ってたけど、自殺未遂で本当に死んじゃう人はいるのよ。それをもう二度とやらないように防ぐことができるかもしれないなら、ここまでやってもおかしくないでしょ?」

代弁してくれた中堅ナースに思わず顔がニヤつく。

「さすが俺の考えること分かってるね。ありがとう」

「もう茶化さないでください」

つつがなく胃洗浄を終えカルテに記入していると、先程の若い看護師がぱたぱたと申し訳なさそうに寄ってきた。

「せ、先生、先程はすいませんでした……っ」

そう言ってお団子頭を深々と下げる。

「いや、俺もめんどくさがってちゃんと説明しなかったから」

「いえ、本当に思い上がったことを。本当にすいません……っ」

「いいよそんな頭下げないで、ほら顔上げて」

にこっと作り笑いで彼女の顔を見つめると、徐々にピンク色に染まっていく頬。


「あ、あの先生……っ」


そうその子が言いかけたところで、さっきの中堅ナースがうんざりした様子でやって来た。

「……先生、病院で女の子誑かさないでください」

「別に誑かしてないよ、仲直りしてただけたって。なぁ?」

そう言って、若い看護師にふる。

「は、はい」

もちろん、いいえとは言えないその子は、素直に答えた。
そんな様子に、ため息をつく中堅ナース。

「はぁ、これだからOPE室殺伐としてるんですからね。黒瀬先生を巡って」

「え?そうなの?」

「えっ?知らないんですか?先生のせいなのに?」

「おぉ、はっきり言ってくれるねー」

さっき俺が苛立っていたのはこの子も勘付いていたはず。
なのに、物怖じせずよくつっかかってくる。