「先生ー、点滴何行きます?」
「あー、とりあえずヴィーンFだーっと落として」
「望月さん、ここ病院なの分かる?」
看護師の問いに、ゆっくり閉眼したままこくんと頷く。
「こんなに薬飲んだの初めて?」
再度、ゆっくり頷く。
……あー、なんかイライラする。
「これだけ飲んだらどうなるか分かってたよな?」
俺の刺々しい言い方に、隣にいた看護師がびくっとする。
すると奴はその問いには答えず、その代わりに目をぎゅっと瞑った。すると瞼の端から涙が零れる。
分からない訳がない、こいつはMR、いわば薬のスペシャリストなのだから。
あーあ、失恋如きで何が辛くて、彼女をここまで追い込んだのか。
しかしいくら辛かろうが、これは絶対にやってはならないこと。
……きっと彼女はまた繰り返すだろう。
見るからに甘ったれの弱そうな子だ。
静かに泣く彼女を蔑むような目で見下ろすと、看護師へ指示を出した。
「……胃洗浄しよう。準備して」
「えっ、胃洗浄ですか?」
この若い看護師が言いたいことは分かる、この時点で胃洗浄なんて無意味だ。
レベルもはっきりしていて、精神薬を服用してから時間が経ちすぎている。
胃洗浄をしても、胃から出てくるのは胃液位だろう。
だけど今の彼女にはやる価値があった。
「そ、そこまでする必要ありますか?これだけ意識があるのに胃洗浄なんて可哀想です……っ」
「あーもう見てられない奴は、処置室から出ろ」
納得のいかない若い看護師は、眉間に皺を寄せたまま俺を見つめる。
ちらっと睨むと、すぐに目をそらした。
……だから、納得できないなら出ろっつってるのに。
あーイライラする。
今日は、朝からずっとOPEだし。
そんな日に限って残り番とか、マジで勘弁して欲しいし。
別に薬中だけならいいんだよ、点滴落として帰らせれば良いだけだし。
はぁ、なのに、本当ついてない。
なんで顔見知りのこいつなんだよ。
そんなに宗佑への失恋がこたえたのか?
それでここまで追い込まれたってのか?
バカじゃねぇの?
たかが恋愛でここまで思い悩むなんて。