<side 黒瀬>
術衣に白衣を羽織って、外来へ向かう。
……あー、めんどくさい。
今日は朝からずっとOPEで昼飯だってろくに食ってない。
このまま直帰したいところだが、運悪く今日は残り番。
「今日の残り当番はっと……、きゃっ黒瀬先生だって!」
ホワイトボードを見て担当を確認する看護師達に後ろから近づく。
「俺が何だって?」
にこっと話しかけると、後ずさって顔を真っ赤にする若い看護師。
「あっ、すいません。お疲れ様です……!」
周囲を見渡し、中堅どころのナースに尋ねる。
「外来、誰か来てる?」
「いえ、珍しく平和です」
「まじで?もう帰っていいかな」
「だめですよ、当直の先生来るまで待ってください」
そんな中、ピッチが鳴る。
さっきまでOPEをしていた患者がいる外科病棟からだ。
「はいはい、どうしたのー?……あぁ、いつも通り4時間あけたら使っていいよ。明日OPE前に包交に行くから。はーい、じゃよろしくー」
電話を切ると、中堅ナースが救急専用の電話を片手に声をかけてきた。
「何?急患?」
「はい、20代女性で薬物中毒です」
「あらら、どれ位飲んだの?レベルは?」
「おそらく10錠以上は飲んでるとのことです。レベルはだいぶ混濁しているようで、呼びかけに答える程度だそうです」
「既往に精神疾患は?」
「ないとのことです」
「受け入れいいよ、点滴落として帰そう」
そうして救急車のサイレンと共にやってきた女の子。
あーあ、何が悲しくてODなんてやるかね。
顔を見ると、これまたびっくり。
どこかで見たことあると思ったら。
……ったく、何やってんだか。
あの無愛想で、俺の前じゃくすっとも笑わないクソ生意気な女じゃねぇか。
あー、ついに桐山にでもふられたのか。
それで悲しくてOD?
はっ、馬鹿げてる。
思わず心の中で嘲笑った。