心がどんどん黒いもやもやに支配されて、煩くざわつく。
その鬱憤は、いつ爆発するか分からない時限爆弾かのようになっていた。



『やっとしたんだよ、キス』

『柔らかかったー』

……タイムリミットはすぐにやって来た。それを聞いて、ついに俺の心は黒い影に完全に侵食されてしまった。






『そうちゃーん、借りてたCD返しに来たよー!』

玄関先で大声で俺を呼ぶ未結。
自室から階段を降りて彼女の元へ。

気軽に家を行き来できるような間柄だが、どうせ明日学校で会うのだ。
わざわざ来なくても。


『学校で返してくれればいいのに』

『あー、あいつ結構ヤキモチ妬きだからさ。あんま、そうちゃんと学校で話すといい顔しないんだよね』

『あぁ、確かに』

『それとね、これ渡したかったから。はい、これあげる。お礼もかねて』

『え?』

そう言って小袋に入ったチョコクッキーを渡された。

『え?って今日はハッピーバレンタインでしょ?まぁ私なんかにもらわなくても誰かさんは、いーっぱいもらったんだろうけど……』

すると何かを期待するかのような、意味ありげな視線を向けられた。
手にはしっかりスーパーのビニール袋が。

『……あぁ、なるほど。俺の部屋にあるから好きなだけ持ってけば?』

甘いものが苦手で、ビターチョコ以外はあまり好きじゃなかった。
だけどそんな事情を知らぬ女子から毎年もらう大量のあまーいチョコ。

正直甘そうな外見だけで胸がいっぱいになってしまう。
そこで、食べられないのなら私達にちょうだい、と言ってきたお隣の姉妹に毎年おすそ分けしていたのだ。

手作りチョコには本当に申し訳ないのだか、食べられないものは食べられないのだから仕方が無い。


『あ、これはそうちゃん用にちゃんとビターチョコで作ってるからあまり甘くないよ!』

『あぁ、ありがと』

『ちなみにあいつは子ども舌だからミルクチョコ。そうちゃんがね絶対食べれそうにない感じのっ』

……また聞いてもいないのにいらぬ情報を。